**体の中を流れる時間が違うということ**








あなたが車の運転をしていたら,前の車が信号で止まっています。
そこで,あなたも車を止めました。
ところが,信号が変わっても,その車は動きだしません。
やっとのことで前の車が動き出しました。
あなたは,少しイライラしながら,運転者を見ると高齢の方でした。
きっと,信号が変わっても,体が反応するまでに時間がかかるのでしょう。
若い頃は,速いスピードで体の中を時間が駆け抜けます。
しかし,高齢になると,ゆっくり時間が流れるのでしょう。
いずれ私も,そうなるに違いありません。
哲学的な表現をするならば,
同じ人間であっても年齢により,「体の中を通過する時間が異なる」と言えるのでしょうか。


さて,多動児・自閉的傾向を持つ子ども達は, 脳のある部分の活動レベルが亢進しているように思います。
これらの子ども達の特徴である”かしこそうな顔”は,顔面表情筋の緊張が高い, すなわち脳の活動レベルが高いことを意味していますし,多動であることも同じです。
一方,知的障害を持つ子ども達は,脳の活動レベルが低いと考えられます。
このことが顔面表情筋の弛緩や、緩慢な動作に表れているのではないでしょうか。

さて,これらの子ども達の歯磨きを見ていると,いずれも長い時間は磨きません。
しかしその意味を考えてみますと,前者の子ども達は体を流れる時間が速いので,
短時間の歯磨きでも,本人にとっては十分に磨いたのかもしれません。
後者の子ども達は,体を通過する時間がゆっくりなので,これから磨きだすのかもしれません。
また磨く前に,その指令が消えてしまったのかもしれません。

私達は,私達の時間の中ですごしており,歯も磨いています。
しかし体の中を流れる時間の差を考えると, それぞれの子ども達は,それぞれの時間の中で磨いているように思います。


さて,障害を持つ子ども達の歯科治療が難しいのは,ある一定時間じっとできないからです。
それは彼らが,住んでいる時間の経過と関係があるのかもしれません。

そう考えれば,これらの子ども達には,私達の時間に近づけることが重要なように思います。
そのために必要な歯科治療が終わっても,我慢できる範囲の中で,歯を磨いたり・PMTCをしています。

こうすれば,彼らの耐える時間が長くならないかと思っています。
長い時間,チェアーに寝ることは,将来難しい処置を受け入れるようになることにつながります。
さらには,私達の住んでいる時間に近づくことになるように思います。





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