歯科保健指導現場での悩み"おしゃぶり&母乳"どうしましょう!

社)川西市歯科医師会 予防歯科センター担当元副会長 DR 徳永順一郎
 
 最近、乳幼児の歯科保健指導の現場で「おしゃぶり」や「母乳とむし歯」、「イオン飲料とむし歯」などが小児科と小児歯科の間の意見統一が出来ていないことから混乱しています。
 そこで平成15(2003)年12月、「小児科と小児歯科の保健検討委員会」がスタートし、意見交換(すりあわせ)がなされました。その結果、次のような統一見解を公表(2005年3月)しましたので、今回は「おしゃぶり」と「母乳とむし歯」について私見と併せてご紹介しましょう。

[Ⅰ] おしゃぶりについて
  おしゃぶりは出来るだけ使用しない方が良いが、もし使用するなら咬合の異常を防ぐために、次の点に留意する。
  初語やことばを覚える1歳過ぎになったら、おしゃぶりのホルダーを外し、常時使用しないようにする。
  遅くとも2歳半までに使用を中止するようにする。
  おしゃぶりを使用している間も声かけや一緒に遊ぶなどの子どもとのふれあいを大切にして、子どもがして欲しいことや、したいことを満足させるように心がける。
子育ての手抜きとしての便利性だけでおしゃぶりを使用しないようにする。
  おしゃぶりだけでなく指しゃぶりも習慣づけないようにするには③の方法を行う。
  4歳以降になってもおしゃぶりが取れない場合は、情緒的な面を考慮して、かかりつけの小児科医に相談することを勧める。
    (日本小児保健学会雑誌:小児保健研究第64巻第2号2005(345-346より抜粋)
  要するに、おしゃぶりホルダーを出来るだけ使用しないで、2歳半までにやめさせられたらほとんど問題はありません。
おしゃぶりの宣伝に使用されている「鼻呼吸や舌や顎の発達を促進する。」は現時点では学問的に検証されていません。しかし考えてみれば、おしゃぶりは指しゃぶりより扱いやすいですね。
なぜならおしゃぶりをお母さんの手の届かないところへ追いやれば、いつでもやめることが出来るから。
たとえば当院で、2歳半前後でおしゃぶりをやめさせようと思ったら、次のように言っています。
  他の赤ちゃん(演出が必要)の目の前で"もうおしゃぶりいらないよねぇ。これ、赤ちゃんにあげよう"。と、ぽんと渡してしまう。
  汚れた水溜りか、みぞに、うっかり(?)落として、"あっ!どうしよう?汚いから捨てるね"と言ってその場で捨ててしまう。
子どもはこれで家には無くなったことを現実として知るわけですから、ほとんどパニくることなく、割り切って諦めてしまいます。"がんばって、おしゃぶりに代わるスキンシップをこれからお母さんが十分にしてあげましょう"
     
〔Ⅱ〕 むし歯と母乳
  母乳哺育の必要性はいまさら言うまでもありません。栄養面から、母子関係の立場からこれを否定できるものではありません。従来、日本では離乳の完了の時期は12ヶ月頃としていましたが、平成7年の「離乳の基本の改定」により、子どもの発達や歯の萌出の個人差を考慮して、12~15ヶ月頃に変更されました。この改定で、母乳は18ヶ月までに自然にやめる(完了時期)と記しています。しかしまた平成13(2001)年の世界保健会議では「生後6ヶ月間は母乳だけで赤ちゃんを育て、離乳食を始めた後も2歳またはそれ以上まで母乳哺育を続けること」を推奨する声明が出されました。
そこで、母乳哺育が虐待の防止や育児不安の軽減に役立つとして、3~4歳まで続けるべしという意見まで出てきて、現在、現場は大混乱!!

  "母乳でむし歯になるか否か"ですが、小児歯科学会の中でもいままで「母乳だけではむし歯にならない派」「母乳だけでもむし歯になる派」と、意見は二分していました。しかし、両派とも母子関係を最優先するなら「出来るだけ低年齢のうちからショ糖を含む食べ物や含糖・酸性飲料を覚えさせず、与えず、そしてしっかり歯磨き(歯面清掃)をし、授乳を就寝手段に使わなければ、母乳を3歳まで続けていてもむし歯にはなりにくいであろう」という考えには異論はないでしょう。
しかし、どうしても、1歳を過ぎるあたりから、子どもはいろいろな食べもの、飲み物を覚えていきます。
また不十分な歯磨きで、歯面にプラーグが停着したまま、寝させる手段に授乳を続けていれば、どうしてもむし歯になります。やはり1歳半までにはやめさせたいものです。
 最近、母子関係を重視して哺育を推進するためには1歳で無理やりやめる必要はなく、母子の状況に応じて自然に止めていけばよいという考えが母子保健の分野で主流になって「断乳」という言葉から「卒乳」という言葉に代えて使い出しましたが、私には所詮言葉遊びをしているだけに思われます。最初の3ヶ月ぐらいはあまり授乳時間を決めず、欲しがれば時間を充分かけて(20~30分ぐらい)授乳させ、できれば8、9ヶ月ごろからは就寝時、夜間の授乳を止めていれば、二本足で歩き始めたころには自然に母親から離れて行くものです。母子分離の儀式がなかなか出来ないのは母親側が"さびしくて離しがたい心理"が優った結果ではないでしょうか。私は「断乳」でも「卒乳」でもなく、母子ともに「乳離れ」が一番自然ではないかと思います。

 今回、「小児科と小児歯科の保健検討委員会」で意見交換された内容を日本小児歯科学会が編集した「乳幼児の口と歯の健診ガイド」(医歯薬出版:3,500円)が発刊('05.5.20)されました。
歯科健診を"子育て支援の場"としてのアドバイス例も多く掲載されていますのでぜひご一読ください。
 
川西市地域歯科衛生士グループ 『カミングハーモニー』
ハーモニー通信 第18号 寄稿 (2005年7月7日)