TEACCHの歯科診療の応用

見通しを持つということ


人間にとって“見通しを持って行動する“ということは,とても重要です。
朝起きたら,何分かけて駅まで行き,何時に会社に着き,
今日はどんな仕事が待っているか・・・?
それを何時までにこなして・・・。 
また,どのようにしたら能率よく仕事を終えることができるだろうか?
お昼には何を食べに行って,夜は遅くなりそうだから家には電話を入れておこう・・。
などと,私たちは見通しを持って行動しています。
もし,この見通しがなければどうなるでしょう?
一日の生活がくるい,通常の社会生活を送ることができません。
こうして考えるだけで,いかに“見通しを持つこと”が重要かわかります。


次に,あなたは海外の見知らぬ国へ行ったとしましょう。
そこは未開の地です。
そこでは,まったく言葉が通じません。
しかも誰もが,緊張した顔をしてあなたを見ています。
どうやら,あなたをどこかに連れて行こうとしているようです。
逃げようとしたら,取り押さえられて,台の上に無理やり乗せられました。
きっとあなたは,不安や恐怖でパニックに陥るに違いありません。
大きな声で助けを求め,暴れまわるかもしれません。



でも,その中の一人が笑顔で握手を求められたらどうでしょう。
きっと,その人はあなたに好意的であると感じ,ホッ!とすることでしょう。
さらに身振り・手振りでコミュニケーションを求められたら,
あなたは同じ方法で,答えようとするでしょう。
さらに絵や写真を示されたら,言葉が通じなくても,
これからどこで,何をするかがわかり落ち着きを取り戻すことでしょう。





さて,自閉的な子ども達は,歯科治療でまったく同じことを感じていると思います。
そこで,私たちが,初診や治療のためのトレーニング,
そして定期健診で行っていることを写真にして並べてみました。
子ども達が,見通しを持ち治療を受けやすいように,事前にご利用ください。


それぞれの写真は,クリックすれば拡大表示されます。

 ”1:歯学部付属病院

 ”1:歯学部付属病院"
今日,歯をきれいにする
歯医者さんの建物です。

 ”2:玄関の写真

 ”2:玄関の写真"
歯医者さんの玄関に入ります。


 ”3:小児歯科診療室の待合

 ”3:小児歯科の待合"
小児歯科の待合で
椅子に座って待ちます。
おとなしく待っています。
トイレは,先に行きます。

 ”4.診療室に入った所

 ”4.診療室に入った所"
診療室に入ったところ,
大きな馬の
おもちゃがあります。


 ”5:診療台です。

 ”5:診療台です"
歯の検査台にあがります。

 ”6:おかざき先生

 ”6:おかざき先生"
おかざき先生です。
背の高い先生です。


 ”7:ほり先生

 ”7:ほり先生"
ほり先生です。
やさしい男の先生です。

 ”8:かなお先生

 ”8:かなお先生"
かなお先生です。
おかざき先生と一緒に
歯を治します。


 ”9:はやし先生

 ”9:はやし先生"
はやし先生です。
笑顔のすてきな女の先生です。

 ”いのうえさん

 ”いのうえさん"
かんごしの,いのうえさんです。
歯をなおす,
お手伝いをします。


 ”10:歯を磨いてもらいます。

 ”10:歯を磨いてもらいます。"
最初に,お母さんに
歯を磨いてもらいます。
きれいに磨けたか
先生がチェックします。

 ”11:鏡を選びます。

 ”11:鏡を選びます。"
口の中を見る鏡を選びます。


 ”12:デンタルミラー

 ”12:デンタルミラー"
むし歯がないか小さな鏡で,
歯の検査をします。
大きな口を開けましょう!

 ”13:歯医者さんの歯ブラシ

 ”13:歯医者さんの歯ブラシ"
歯医者さんの歯ブラシで
歯を磨きます。
途中から歯ブラシが
動き出します。
ゴロゴロという音がします。


 ”14:おいしいお薬。

 ”14:おいしいお薬"
イチゴかブドウのお薬を
選んで歯につけます。
このお薬は,歯を強くします。

”15:歯にセメントをつける。

 ”15:歯にセメントをつける。"
奥の歯にむし歯予防の
セメントをつけます。


 ”16:先生と握手をします。

 ”16:先生と握手をします。"
治療が終わったら
先生と握手をします。

 ”17:“さよなら”を言います。

 ”17:“さよなら”を言います。"
“さよなら”の,
あいさつをして帰ります。


”すべての写真をご希望のかたは,こちらにどうぞ!"(PDFファイル)


その他の主な道具です。


 ”たんしん

 ”たんしん"
むし歯がかくれていないか,
しらべます。

 ”スリーウエイ・シリンジ

 ”スリーウエイ・シリンジ"
水と風がでて,
むし歯を吹き飛ばします。


 ”バキューム

 ”バキューム"
口の中の掃除機です。
たまったツバを取ります。

 ”麻酔(むし歯を眠らせます)

 ”麻酔(むし歯を眠らせます)"
悪いむし歯のばいきんを
眠らせます
声を出すと,
ばいきんが起きるので,
声をだしません。


 ”CRシリンジ

 ”CRシリンジ"
奥の歯にセメントや
プラスチックを
つめる道具です。
これでしろい歯にします。

 ”お口のカッパ

 ”お口のカッパ"
むし歯がおなかの中に
逃げていかないようにします。
逃げるとおなかが,
いたくなります。


 ”ジェット機

 ”ジェット機"
シューとジェット機のような音がしますが,心配ありません。
むし歯をやっつける器械です。




注意:
*これはあくまで標準的なもので,途中を省略し順番が変わることがあります。
*大きなむし歯などで,トレーニング等を行う余裕がない(むし歯が神経まで達すると,処置に来ていただく回数が急に増えます)場合は,治療を優先させていくことがあります。
しかし,その後,定期健診などで続けてきていただければ,子ども達は徐々に慣れて,必ず上手にできるようになります。
*子どもの状態によるのですが,2〜3ヶ月あけると,以前に行ったトレーニングを忘れパニックに陥ることがあります。
可能であれば,1月に1回程度,定期健診にお越しいただき,いろいろな器械に慣らせて上げてください。
*治療の難しい子ども達は,私たちの手もかかりますので,比較的すいている午前中に診療を行います。
私たち自身も,混雑している2時以降では,余裕を持って対処できません。
そのような状態を,子ども達は微妙に感じとり,上手くいかないことが多いです。
学校との関係もおありでしょうが,ご理解ください。もちろん上手に出来るようになれば,この限りでありません。



塗り絵です。診療の前に家で塗り絵をすることも見通しを立てることにつながります。
写真をクリックし,ダウンロードしてご利用ください。


 ”歯の検査

 ”歯の検査"
むし歯がかくれていないか,歯の検査をします。

 ”フッ素1

 ”フッ素1"
ブドウかイチゴの薬を塗ります。
歯を強くする薬です。


 ”歯磨き

 ”歯磨き"
自分で歯を磨きます。

 ”歯磨き1

 ”歯磨き1"
おうちの人に,歯を磨いてもらいます。


 ”歯磨き2

 ”歯磨き2"
おうちの人に,歯を磨いてもらいます。

 ”歯磨き3

 ”歯磨き3"
おうちの人に,歯を磨いてもらいます。


 ”歯医者さんの歯ブラシ1

 ”歯医者さんの歯ブラシ1"
歯医者さんの歯ブラシで
歯を磨きます。

 ”歯医者さんの歯ブラシ2

 ”歯医者さんの歯ブラシ2"
歯医者さんの歯ブラシで
歯を磨きます。


 ”握手

 ”握手"
終わったら,先生と握手をして帰ります。


*****私の目標****



私は,自閉的傾向のある子ども達の診療にあたり,
将来にかけて2つの目標を持っています。



1:自ら診療台にあがり大きな口を開けること。
(治療が自分のためだと理解できる。・どんな歯科医にも診てもらえる。)

2:自分の力である程度,歯を磨くことができる。
(歯磨きの自立)

これだけのことが出来たら,医学的な・社会的なハンディキャップはあったとしても, 少なくとも歯科的にはハンディキャップは状態にはないと思います。 そんな状態に到達できるよう,常に診療では心がけています。


私は,これまで何百人という自閉的な子ども達を診てきました。
保護者の方にとって,歯科治療は,上手にできるようになるのか,さぞ心配なことでしょう。
でも,ご安心ください。私の経験から申し上げると,“必ず,上手に受けられるようになります。”

幼児期から来院していただけた方は,学童期には,かなり落ち着いて上手になります。
左の写真は,私が20年以上,幼稚園の頃から診ている30歳の方ですが,とってもきれいな歯をしています。
特別の写真ではありません。
乳歯の時にひどいむし歯があっても,定期健診で継続的に診せていただいている方は,ほとんどこのような口をされています。
むし歯のない頃から,来ていただくともっと有利です。
一方,小学校入学後では,大きくなるほど不利になります。
治療の時に嫌がっても,定期的に来ていただければ,上手になります。
もっとも難しいのは,痛みがある時にだけ来られる方です。
毎回,子どもが嫌な思いをするので慣れません。
このような悪循環に陥ると,体が大きくなってからでは,暴れるとうまく固定できないので,お手上げの状態となります。
その場限りの治療では,治してもすぐに悪くなります。
まるで”もぐらたたきゲーム”のように,次々と前に治した所が悪くなり,なんとも手をつけることができない方もいます。
お互いに悲しいことですし,このような治療はしたくはありません。
ともすれば,全身麻酔での歯科治療になります。
しかし,これは私の範囲外となります。
残念ですが,お手伝いできなくなります。
どうぞ,悪循環に陥らないようにしてあげてください。

********ショートエッセイ:体の中を流れる時間が違うということ********