保健指導 相手をかえるこの一言
〜宿題集〜1997年〜


"保健指導 相手をかえるこの一言"(グル−プワーク発表会)

「甘いものをが,ダメだってわかっているけれど出来ないんですよ。」
「ダラダラ食いが,悪いのは何度も聞きましたが,子供が泣いてうるさいし・・」
「子供の歯まで磨いてあげなければいけないんですか・・・」
「それに,私仕事を持っているから,グテグテ言わずに,さっさと子供の歯を  治してくださいよ。私は,チョー多忙なんです。あなたは歯を治すのが仕事で しょ!」


この様に「わかっているけど・・・できないんです。あなた子供も育てたことが ないくせに・・」と言うようなお母さんからのツヨーイ言葉は,私達の心にグサ ッときます。
さて1歳6カ月児歯科健診・3才時児健診,はたまた診療室でこの様なことを言 われました。
あなたは,どの様にお母さんにお話しますか?
お母さんをかえる"この一言"を宿題といたします。
そこで、次の2つのケースで、あなたはどの様に話をしますか?


問題1
1歳6カ月児で上顎の4前歯に白斑がありました。 母親に「甘い物がダメなのは、知っているけれどできないんです。歯ブラシも、必要なのは、わかっているけれどできないんです。」と言われた。
問題2
3歳でランパント・カリエスがありました。 母親に「わたしゃー、忙しいからサッサと治して下さい。」と言われた。



F&H研究所 幕内秀夫  管理栄養士(著述業)
 「お母さん,甘いもの食べさせてもいいですよ。細かい事なんてどうでもいいですから, 腹一杯ご飯食べさせて下さい。腹一杯ですよ!!」
 1歳6カ月のお子さんに甘いお菓子を食べさせるお母さんのモチベーションを高める一言 は思い浮かびません。せめて,子供に腹一杯ご飯を食べさせていただき菓子類が減ることを期待 します。逆に言えば,子供に腹一杯ご飯を食べさせないで,「甘いものを止めなさい」なんて, 無理難題を押しつけているようなものです。でんぷん(糖質)が足りなければ,ショ糖(糖質), 果糖(糖質)を欲するのが‥‥‥当たり前の生理ではないでしょうか。

小山歯科医院 小山 敦  歯科医師
1と2のケースも初診と考えますと,どちらも母親の歯やカリエスに対しての知識・意識が少なく,興味がなさそうです。そして,この様な母親の大半は,「この状態で歯医者に行ったら管理不足を指摘され,怒られるかな」と不安を抱き,気重になっているとも思います。まず,いきなり「こんなに虫歯を作って!」とか「ハブラシしなければダメだ!」とか「甘いものは与えるな!」など,母親を叱ったり,否定すると不安な気持ちのレセプターにぴったりはまってしまい,指導者との間にバリアーを作ってしまいます。その結果,シュンとなってしまうか,開き直るという状況に追いやってしまいます。小山歯科医院では,叱るようなことは行いません。人間は興味を持つと時間を惜しまず没頭できると思います。必要なことはまず,そこに虫歯があるから悪いという概念は忘れて,歯に対して母親が興味をもてる場を作ることが大切だと考えます。1と2のケース,特に分けてマニュアルのようには考えていませんが,
1のケース
「お母さん,ダイヤモンド好きでしょう?」
婚約指輪など引き合いに出すと分かりやすいが,自然界で一番硬いのは御存じダイヤモンド,しかし,これも王水という酸に弱く,酸性になるとダイヤモンドも溶けてしまいます。歯の表面はエナメル質といってダイヤモンドに匹敵するくらい硬いものです。しかし,一生懸命磨いても習慣的に磨き残しやすい所に細菌が溜まって酸を作り虫歯になってしまいます。ダイヤモンドはお金で買えますが,人間の歯はお金では買えません。風邪は万病の元ですが治ったときは元の体に戻ります。歯は一度穴があくと歯医者に行っても元に戻るのではなく詰め物や似たようなものに置き換えるだけなので,穴のあく前の時点,予防でお付き合いができるように,一生歯医者で治療しなくて済むようにお手伝いできることを願ってます。それには,私達の力は30%,残り70%は毎食後のケアにかかっているのでお母さん一緒に頑張りましょう。
2のケース
「お母さん,歯医者きらいですよね?」
「でも,よくこの子を治療に歯医者に連れてきてくれました。これ以上虫歯が進行すれば,危うくバイキンがあごの骨に入って化膿し,脳に達すれば命にも影響し,死んでしまうこともあるんですよ。」
「運良くまだ乳歯なので,これからはえてくる永久歯を絶対虫歯にしないように今から意識していきましょう。」
「一度,しっかり治療して,そして,二度と治療しなくて済むようにお手伝いさせていただきます。お母さんの時間を少しこの子の健康のために分けてあげて下さい。」
1や2のケースのみならず,患者さんとの信頼関係(ラポール)の形成が大切であると考えます。


林小児歯科 林 昌司  歯科医師
私は居酒屋のおやじです。お客様の好みに応じていろいろお酒をご用意しております。
1.1歳6カ月 上顎前歯白斑
'辛口 対戦型'
今頃こんな虫歯だったら,幼稚園にあがる頃はボロボロだね。いま心を入れ替えれば歯を入れ替えなくても済むよ。まだ間に合うから。
'甘口 お笑い型'
ああ,これはおしめを3日ほど取り替えなかったようなもんですね。歯の表面が虫歯菌のウンチだらけで歯がオムツかぶれになってる。これ以上ほっておくと,お尻の穴が5つになるかもね。
'純米 真面目型'
この時期に白斑だと,虫歯のスピードは大変なものですから,すぐに削りようのない程の穴になってしまいますよ。でもいまなら,歯磨きと食べ方に注意すれば元に戻れますよ。
'期間限定蔵出し 時事問題型'
この前歯は,タンカーが座礁している状態ですね。重油が漏れだす前に手を打てば充分間に合いますが,ちょっとほっておけば取り返しのつかない被害になりますよ。
2.3歳ランパント
'辛口 対戦型'
お母さん,そんなに歯科医を儲けさせることばかり考えていないで,お子さんの幸せについてもっとよく考えて下さいよ。お母さんの忙しいって何でしょう。それはお子さんが幸せに生きていくための忙しさなんでしょう。上と下の歯がかみ合って「歯(シ)合わせ」ですよ。
'甘口 お笑い型'
ああ,わたしゃサイの河原の石つみか。積んでも積んでも鬼が崩しに来る。本当は崩されない,良い方法があるんですけどねぇ‥‥。
'純米 真面目型'
お母さん,虫歯は削ってつめるだけでは治っていないんですよ。どうして虫歯になったのかを考えて,生活から治さなければ同じ過ちのくり返しの中で,やがて永久歯も使えなくなってしまうんです。まさに,後悔先にたたずですよ。
'期間限定蔵出し 時事問題型'
いまお母さんの言うとおりに,さっさとつめるだけで終わってしまうのは,まるで,乗っ取り犯の脅迫に無条件でハイハイと凶悪犯を釈放してしまうようなものですよ。人質は一旦開放されるかもしれませんが,またどこで爆弾テロやハイジャックが起こるでしょう。


久保山裕子  歯科衛生士
1.忙しくてできない母タイプ
DH「わかっていてもできない事ってありますよね。」
母「そうなんです。私,仕事をしていて帰りに保育園に迎えに行って,家に帰れば洗濯物を取り入れ,ご飯を作り,でも間に合わないからお菓子を食べさせて黙らせておくんです。もうホッとしたら子供はその辺で寝ていたりするんです。」
DH「忙しいのに子育て頑張っているんですね。」
母「でも虫歯になっているなんてどうしましょうか。」
DH「そうですね,簡単にできる虫歯予防を考えてみましょうよ。」
母「簡単にできるんですか?」
DH「お母さんのように一人で何もかもしたら家に帰ったらパワーが切れかかっているでしょう?でもやることはいっぱい。子供はやっとお母さんに会えて甘えたいんだから10〜20分少し休んで一緒におやつ!」
母「でもお菓子は虫歯になりますよね。」
DH「そう,だからおにぎりやパンみたいなお腹にたまりやすいおやつをちょっと遊びながら食べるのは子供も喜ぶみたいよ。丸いおにぎりをアンパンマンに海苔で変身させながら食べたり,ロールパンもチーズや卵をはさんで食べたりすると子供と一緒にお母さんの元気も回復するよ。お腹と気持ちが落ち着いたら一人で遊んでくれるから,安心して家事ができるし,歯磨きもお父さんに協力してもらってしたり,無理だったら食べてすぐかお風呂上がり,またはお布団に入ったときと時間を決めてその子の好きな機嫌のよいときにしたら楽よ。」
2.方法がわからない母タイプ
「泣くから,暴れるからハブラシできないんです。」という人には, この時期は嫌がるのは当たり前,お利口さんは親孝行だといって泣くのは限られた期間だという。固定の仕方を教えて実際にブラッシングしてみせる。
3.疲れている母タイプ  子供パワー>母親パワー
育児疲れまたは子供にふりまわされているお母さんには,
他の人の助けを求めるように励ます。→父親やお兄ちゃんお姉ちゃん
元気を付けてあげる→よくやっていることを認めてあげる
育児で手の抜き方や子供の疲れさせ方(散歩をさせる等)を教える。
4.やる気がない母タイプ
子供が2人目,3人目ともなると育児にスレてしまう。
虫歯になったときの害,(子供の)歯科治療の大変さを話す。
予防の方が治療よりも簡単で楽であることを説得する。


愛歯科診療所 杉浦裕子  歯科衛生士
「どうして歯磨きをしなくてはいけないと思いますか?あまり歯磨きをしない子供もなかにはいて,それでも虫歯にならなかったりする子もいますよね。お母さんは何のために,なぜ歯ブラシをしないといけないと思われるのでしょうか?」
‥‥‥お母さんに考えてもらうよう導く。考えてもらっていろいろと発言を聞いた上で自分も一緒に考える。あれこれ話しているうちに違ったパラダイム(観点)から物事を見つめることができるのではないでしょうか?本人のやる気がなければ全て労となる。


酒井紀代子  歯科衛生士
「お母さん,ようは医者を儲けさせてくれるんやね。こんだけあったらサッサッサーとは治されへんけどちょっと頑張ってみましょうか。」
強がっているけど,内心ビクビクということもあると思うので安心させてあげるのが第一で,その後で少しづつ教育的なことを伝えるようにする。


竹本潤子  歯科衛生士
先日,保健所の1.6健診で,哺乳ビン使用,上顎4前歯白濁の子がいました。20歳のお母さんにお話を始めようとしたところとたんに,「虫歯になったらなったときです。その時考えます。急いでますので。」と,拒否されてしまい,次の言葉を失いました。保健婦さんは,「まあ自分のことちゃうしね。しゃあないやん,ほっとこ。」と言われるのですが‥‥‥
後ろ向きのお母さんにとっては時間の無駄,大きなお世話でしかないんですよね。


草野 順子  歯科衛生士
診療室に食べる「のり」,あの手巻き寿司やおにぎりで活躍している「のり」です。
お母さんに「わたしゃー忙しいからサッサと治して下さい」と言われたら,「のり」をピッピと切って,前歯部に貼ります。お母さんの前歯にです。そして,鏡を見てもらいます。「恥ずかしいでしょ。お子さんも恥ずかしいんですよ。幼稚園に行ってもお友だちにからかわれたり指さされたりしたら傷つきますし,口を開けなくなって,内向的になったりもするんです。」「さっ,子供さんにストレスをかけずに,無理をせず,二度と虫歯にならないように治療して,歯磨きも練習しましょうね。それとも,このままあそこの商店街に行って来ます?!」


小若歯科医院 花田睦恵  歯科衛生士
赤ちゃんの時は,おむつを交換するときにお尻をきれいにしてあげないと赤くかぶれてくるでしょう。お口の中でも汚いものをそのままにしておくと虫歯になったり,歯ぐきが赤くなって腫れてきたりするんですよ。


広島口腔保健センター 岸菜景子  歯科衛生士
それでは,お母さんの言われるようにすぐに虫歯の治療を致します。その前に,〇〇ちゃんのお口の中を診せていただけますか?〇〇ちゃんは比較的虫歯になりにくい下の前歯まで全部虫歯になっています。これには何か原因があると思われるのですが,お母さんは何が一番原因だと思われますか?その原因を少しづつ解決して,〇〇ちゃんが何でもおいしく食べられるようにしていきましょう。


久保歯科クリニック 住本奈保美  受付
そうですよねー,私も甘いもの好きですから,止めろと言われるとつらいですよね。歯ブラシがめんどうで怠けることもありますよ。でもねお母さん,私こういう仕事をしているとしみじみ思うんですけど,治療費ってホント高いです代ねー。特に子供は乳幼児医療が切れて6歳までは大人の1.5倍の金額になりますから大変ですよ。まあ,いま子供さん1歳だから無料でしょ?治すなら今のうちですよ。それで治療しながらどうやったら歯ブラシを続けられるかとか甘いものを減らせるかとかを一緒に考えていきませんか。大丈夫,最初から完璧なヒトなんていませんよ。うまくいけば,治療で高いお金を払わず,そのぶん何かおいしいものでも食べにいけるじゃないですか。


ながた歯科 藤田和子  歯科衛生士
(宿題2の答えより)
とにかくこんな状態の虫歯はほっておきますとあごの中にある永久歯に悪い影響を与えるかもしれませんので治療はいたしますが,子供さん自身の恐怖心や歯の痛みは親が代わってあげられないのですよ。そのことをよく考えて,これから食べ物や飲み物に気をつけ歯磨きを実行していただく方がお忙しいのであればなおさら虫歯の治療のために時間を費やさなくても良くなるのではないでしょうか。


難波比呂志  歯科医師
(宿題1)「そうですよね,お母さんだけじゃないんですよ。うちへ来ているお母さんもほとんどの人が,やらなきゃいけないのは分かっているんだけど,仕事や家庭で時間がなくて歯磨きができなかったんです。それで虫歯にしてしまって苦労したんですから。でも,お母さん,〇〇ちゃんはまだ軽い方ですよ。これなら〇〇ちゃんの歯を削ったりしなくていいかもしれないよ。ただし,歯磨きができたらね。ご飯を食べた後,お母さん,お茶碗やお皿洗ってる?それと一緒だよ。カビがはえたり,汚れてきたないまま口に入れないでしょ。でも,歯に昨日の食べカスがついてるよ。きれいじゃないと思うけどなあ。良く考えといてね。他のお母さんもできるようになったんだから,お母さんも少しずつ頑張ってみて。」
(宿題2)「そうですよね,これはひどい虫歯ですね。すぐに治した方がいいですね。じゃあお母さん,今から治療をします。でもこのままじゃあ時間がかかりますけどいいですか。分かりました。じゃあまず歯ブラシで〇〇ちゃんの口の中をきれいにしてきて下さい。きれいなほど治療の時間が短くて済みますから。じゃあ,お願いしますよ。」
「ね,きれいにしてきたから早く終わったでしょう。今度は,おうちできれいにしてきてごらん。忙しくて時間がない人は,みんなおうちできれいに磨いてから来て,早く帰っているみたいだよ。じゃあ,がんばってね。」


小田島歯科医院 片山智子  歯科衛生士
忙しいのでしたら,お子さんのお口をここに置いていっても構いませんよ。取りにこられるときまでに虫歯を治しておきますから。


石田延子  歯科衛生士
(宿題1の答えより)
歯磨きのことですが,頑張らなくていいけど,1日に1回できるところをできるぶんだけしてあげたらいいんですよ。お風呂に入っているときなんか気分が変わるからちょっとくらいやらせてくれると思いますよ。そしてちょっとでもやらせてくれたら,うんと誉めてあげて,「また,明日もやろうね。」とつぎにつなげて終了にする。特に前歯の所に毛先を当ててシャカシャカやってもらうと完璧ですよ。白い部分がどうなるか観察してて,今より大きくならなかったら万歳ですね。ちょっと頑張ってみましょうよ,お母さん。


佐保麻里子  歯科衛生士
(宿題1の答えより)
子供に甘いものをあげたり,歯磨きしてあげられないときにあまり自分を責めないで下さい。やれるところから少しづつ変えていければそれでよしとしましょう。子供が1.6歳くらいのときは,兄弟がいたりで毎日大変です。完璧でなくても一生懸命やっていたら歯だけでなく,何か伝わるものがあると思います。私も,2歳の子がいます。お互い頑張りましょう。あともう少しで,時間もゆっくりなる時がきます。


兵庫県立総合衛生学院 萬代昌代  歯科衛生士
(宿題1)そうですね,お母さんは甘いものがダメだということも,歯磨きが必要だということもよく分かってらっしゃいますね。でもね,本当に甘いものが虫歯になるのでしょうか?本当に歯磨きしないと虫歯になるのでしょうか?甘いものをいくら食べても虫歯にならない人,いますよね。歯磨きしなくても虫歯にならない人,いますよね。そんな人達はうらやましいです。甘いものはおいしいですし,特に子供を静かにさせたり,するのに手っ取り早いですものね。そして,歯磨きもするのめんどくさいし,子供が嫌がるのを無理にさせるのも大変ですよね。
所で,統計的に調べてみると10%の人が歯磨きをしなくても虫歯にならないそうです。しかし,あなたのお子さんは,歯が生えて1年あまりでもう虫歯の始まりである歯が白く濁っている状態になっていますから,この10%の恵まれた歯の質でないことは確かです。また,もしかしたら,最も不幸な,歯磨きをしても,おやつの甘いものを制限しても虫歯になってしまう10%に入る子かもしれません。どうしますか。専門家による処置が必要かもしれませんよ。ですからまず,8割の中に入っているとして,お母さんがダメだと分かっている甘いものを食べる時をよく考え,歯についたゴミをしっかりとることが,今,しつけとして大変必要なのです。お母さんのやる気が,この子の人生の歯,いわゆる食生活をバラ色にすることができる大切なきっかけです。
(宿題2)
「はい,分かりました。治療いたしましょう。お母さんも忙しい中,歯科医院に連れてこられて偉いですね。」子供に,「お母さんは忙しいのに,〇〇ちゃんのために歯の治療に連れてきてくれて,優しいお母さんでよかったね。」と言う。「3歳児のしつけ,大変でしょう。何でも一人でできるようになったのかしら。食事も,トイレも,着替えも‥‥‥すごいすごい!!もちろん,洗顔や,入浴や,歯磨きも一人かしら?お母さん偉いですね。耳のそうじ,つめ切りは?お母さんがやっているのですか?耳のそうじをしないと外耳炎になるし,つめを切らないと友達を傷つけたりしますものね。それと同じで,歯磨きもできていないと,虫歯になって噛むことができなくなって,食べ物が変わるのです。今,この子は,痛いと思いますが,まず噛めません。すると,食事ができません。治療も,大人の歯のようにはできません。今,忙しい生活の中でできることはありませんか,お母さん」(お母さんに考えてもらう。)少しづつ治療していって,話して,できることから自分で解決策を考えてもらうようにする。


香川県身体障害者医療センター 土田佳代  歯科衛生士
(宿題1)
DH「学校にいかなくっちゃって思っても,朝が来るとお腹が痛くなるって,不登校の子と同じだね。さーて,どうしようねえ,お母さん!」
(実は今,息子がまさにそれ!本当にどうしよう‥‥‥)
DH「まずは,一日の生活の様子を聞かせて下さい。」
母「朝は‥‥‥。」(母が,何と言おうと聞くだけ。答えは一つ)
DH「じゃあ,次までに1回,子供の歯,磨いてきてね。で,1回甘いお菓子を我慢させるか,他のものに変えてみるかしてみて。1回でいいから。」
(宿題2)
母「わたしゃー‥‥‥」
DH「子供は,促成栽培ってわけにはいかんから,そうすぐ,さあと言われてもねえ。」
母「でも,仕事もあるし,忙しいから早く!!」
DH「お母さんも仕事持ってると大変ですよねえ。そのうえ,子供を育てるのもお母さんの仕事だしね。」
母「主人は忙しくて,家のことなんか‥‥‥」
DH「そうですね,まずはお父さんからですね。子育てにも参加してもらって。」
母「そんなヒマないんですよ。」
DH「30分でも子供を頼んで,お母さんがリフレッシュしましょう。そうすれば,お母さんにもっとゆとりができるから。そしたら,子供ともゆっくり向かい合えるようになるよ。」
母「30分も持つかしら?」
DH「持っても,持たなくても,お父さんに任せましょう。こんなに子供のことお母さん思ってらっしゃるんだから,6歳臼歯がはえてくるまでに,この口の中何とかしてあげましょうよ。一緒にできることはお手伝いさせていただきますね。共働きって大変よねえー。」


京都市立養正小学校  久保昌子  養護教諭
(宿題1)
 いやあー(おおげさに驚く)お母さん,こんなことしたらたいへんですよ(深刻に)。哺乳瓶にジュースなんか入れたはらしませんか(京都弁の丁寧語)?・・・以下,哺乳瓶の説明をする。・・・
「乳歯のむし歯なんか,はえかわるし,どうでもいい」と思ったはるのと違いますか?そんなこと考えてたら,後で後悔しますよ。乳歯は乳歯で,抜けるまで手入れが必要なんですわ。実際,はえかわりの時期に乳歯がちゃんと抜けへんかったせいで,永久歯の前歯がけったいな具合に生えてくる子が,けっこういるんですよ(どのような様子かを動作で説明)。
「わかってるけど・・・できないんです。」というのは,何もしていないのと同じです。子育てが大変なのは,わかります。でも,それ(歯の手入れを含む,生活全般の援助)をできるのは一緒に生活をしている人だけです。やった方が良いとわかっているなら,ひとつでもいいしできることから始めてみたらどうでしょう。今ならまだ間に合います。→その後具体的な歯の指導を行う。
(宿題2)
いやあー(大げさに驚く)お母さん,こんなことしてたらたいへんですよ(深刻に)。哺乳瓶にジュースなんか入れたはらしませんか(京都弁の丁寧語)?・・・と書き始めると,以下<問題1>とほぼ同じ様な言葉がけになってしまいそうです。
 何せ「ランパント・カリエス」という言葉を聞くのも初めてで,可能な限り尋ねてみました。でも,知らない人が大半でした。
やっと,齲蝕のひどいものと聞いたのですが・・・。また,教えて頂けたら有り難いです。


兵庫県立こども病院  石田敬子  歯科衛生士
わかっているけどできないって事,よくありますよね。でもお母さんはわかっていても,この子はわかってないし,する,しないの選択すらできないんです。
子供が自分の意志で行動できるまではやはり親の責任だと思います。このままわかっていてもできないのであれば,むし歯はどんどんすすんでいきます。そしたら,そうなると思いますか?
生まれつきの病気でどんなに努力しても治らない病気をかけている子もいます。予防できるものなら予防すべきではないでしょうか?お母さん,一度考えてみてください。


田治米歯科医院  岡本久美子  歯科衛生士
例文からみると母親のデンタルIQが高いとは思えず,子供には勿論,その母親の歯もみたくなる様な気がします。子供の歯を見て
「いやー,かわいそう。痛くなかったの?虫さんいっぱい居てるから,治そうね。甘いもの好き?」といい,好みの食べ物を聞き直し,母親に「お母さんに忙しいでしょうけど,子供さんに歯ブラシを教えてもまだ一人では十分に出来ないし,絶対一日一回仕上げ磨きしてあげて下さい。虫歯は歯医者で治してもまた手入れしないと進行しますし,"乳歯だから,はえ変わるしいいでしょ"なんて事ないんだから,こんなに(虫歯が)沢山あると余計治療にも時間と日数がかかるんだからお母さんここに連れてくるでけでも大変でしょ?」
といい,「治療はちゃんとしますので,歯医者に来る前にも歯ブラシして下さい。」といい,来院のつど治療状況を説明し,母親とも最後T.B.Iを行う。


小若歯科医院 溝川昌子 (歯科衛生士)
(1のこたえ)
 そうですね."あれがいい"とか,"これがいい"とか,近頃はいろいろとテレビや本なんかでも健康に関することがありすぎて,お母さんもプレッシャ−感じますね.
それに,"良い"と言われることがちゃんと実行できるかどうか,というのは,別に歯に関することに限らなくても難しいですものね.・・・・ ですから,安心してください.
 皆さん,あなたと同じように"したいけど,できない"っていう悩みを持っておられますから.(・・・と,まず,あまりプレッシャ−にならないような話をして,その流れでお母さんとお子さん,家族に関する情報を聞き出します.そして,実行していただけるよう励まします・・・・.)いくつか,今紹介したんですがどれか,やってみようかな,できるかも・・・・,と思われたものはありますか?・・・・ はい,大丈夫ですよ.少しずつでいいですからね.お子さんはまだ,お母さんだけが頼りです.いろいろ大変だとは思いますけどお子さんのお口を虫歯からしっかり守ってあげて下さいね.
(少し,遠回しな押しつけか?とも思いますが親の責任も少しチラつかせつつ 励まします.)
(2の答え)
そうですね.これは,かわいそうですねぇ.
早く治してあげられるといいんですが・・・・先生,どうでしょうか.
(・・・・と,まずDrに登場していただき,このお母さんに診断と治療方針 を伝えてもらうのがいいと思います.また,とにかく続けて来院してもらえ るよう患者さんである3歳児へのアプロ−チで診療室が,楽しい場所である という印象を与えるよう心がけてみます.また,お母さんといろいろとお話 しをして,一度にではなく 少しずつ予防について考えていただけるよう進 めていければ,と思います.)

※今回もむずかしい宿題でした.普段,患者さんと診療室で向きとき,相手を変えようと,あまり意識はしていないからです.(相手がこちらのどの言葉から"ああ,そうか"と思われるかは,それぞれちがうと思いますので.)
ただ 正しい知識をわかりやすく,お伝えする事と,なるべく,相手の方の生活の中に取り込んでいただきやすいアドバイスをするように心がけたいと思っています.


沖縄県八重山保健所 西里八重子  歯科衛生士
(宿題1)
甘いものって確かにおいしいし,大人だってたまには食べたくなりますよね。だから子供にも'いっさい食べさせない'ということはできないと思うんですよ。大人は「このへんでやめておこう」とか,「今日は甘いものをたくさん食べたからジュースは止めてお茶にしよう」とか,「いつもの倍くらい歯磨きをしよう」とか思えるものです。でも,1歳6カ月のこの子はどうでしょう?目の前にあればあるだけ食べたがるんじゃないですか?だからお母さんが内容や量をしっかり管理して,「今日はこれだけね」って感じでダラダラ食べられないようにしてしまえばどうでしょう。もっと理想を言うと,甘いものを食べる日(Sweet Day)を1週間に1回作って「さー今日はいっぱい食べられるぞー」それこそゲロを吐くまで食べさせてあげる。そうすると,普段はチョコやあめ玉に執着せずにSweet Dayを待つようになるんじゃないかナー。
歯磨きの件ですが,歯ブラシができないのは嫌がって暴れるからですか?それとも他のことで手がいっぱいで時間がないからですか?これくらいの年令の子は,たいてい上手にはさせませんよ。けれど,嫌がりながらも毎日の習慣にして続けていけば少しずつ慣れてくると思います。特にお母さんの声かけは大事ですね。
いずれにしても,このままの生活を続けるとどうなるか想像してみましょう。まず,上の4本(白斑があるもの)は虫歯になってだんだん歯の首の部分が溶かされて首の細い歯になっていきます。さらに進行するとポキッと折れてしまいますね。そうなると,
 うまく噛みきれないのでいろんなものが食べられず,栄養的に偏る。
 発音がうまくできない。
 根っこの先で感染を起こし,膿がダラダラでて口が臭くなる。
 人に笑われるので人前で笑ったりおしゃべりをしなくなる。
こういうことが近い将来,必ず起こってきます。また,歯磨きが定着していないと次は奥歯に大きな虫歯ができて,夜中に「歯が痛いよー」と泣き出します。そうなったとき,お母さんに何がしてあげられますか?
ね,お母さんの責任って重大でしょう。多少嫌がっても貯金のつもりで毎日少しずつ,夜寝る前に一回でいいですから頑張って磨いてあげてみませんか。
(宿題2)
忙しいなら余計に私の話を聞いて下さい。この先歯科医院通いをする時間が必ず減りますよ。決して損はさせません。(キャッチセールスみたいですね)
'ホンマカイナ'と言う顔を相手がしたら,宿題1で話したようなことをちょっとおどかしながらしゃべります。






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