先日,少年院で講演してきました。 昔,お世話になっておりました。・・・・・・ ・・・・・・といっても入所していたわけではありません。(笑うところ) 以前,ここで少年たちの歯科治療をしに行っていたのです。
おいおい!10代で,この口か???と驚くような,ひどい歯をしていました。 シンナーは,歯の象牙質を溶かし虫歯を急速に進行させますし, 覚せい剤をしていた少年たちは,いくら麻酔をしても効きません。 こんなことが,あるんだな・・・・と思いました。 でも,この年齢で,これだけボロボロになったのだから,乳歯のときから ひどかったことは容易に想像できます。 そうなると家庭環境が影響するので,この少年たちだけを悪者に するわけにはいきません。 幼少期からの養育環境の問題を引きずって罪を犯したのでしょう。
一方,第1大臼歯はきれいなのに,前歯や第2大臼歯がとんでもない 虫歯になっている少年もいます。 さて歯は生えた直後は,まだ歯が軟らかく虫歯になりやすい性質があります。 このことから類推すると,第1大臼歯の生えてくる小学校の入学前後には 状態は良かったのですが, 前歯や第2大臼歯が生えてくる時期,すなわち思春期に, 悪い友達に引っ張られるなどの問題から派生した虫歯だと考えられます。
(余談:長期間,同じ子どもたちを診ていると思春期に入るとすぐにわかります。 きれいな口だったのに,急に歯垢が付くのですね。 保護者の方に,“最近,難しくなったでしょう?”とお聞きすると, “そうなんです。でもどうしてわかるのですか”と尋ねられます。 “口に書いてある。”と笑いながら答えています。 でもしばらくして,またきれいになってくると,難しい時期は終わったのだな・・。 と思い,その子の成長をひそかに喜んでいます。)
講演内容は,更生につながる話だったら何でもよいということで,歯 の話から禁煙の話をしようと思いました。 ほとんど全員,喫煙をしていたと考えられるので, 社会に出た後も,タバコの我慢すること→覚せい剤の我慢・誘惑の我慢 悪い友達からの我慢・仕事上 での我慢・・・という図式が考えられます。 我慢のなさが事件につながったので,自制心をつける話が必要です。 ・ ・・となると,最初の我慢は,社会に出てからのタバコです。 ・ 話の始めは,厳しい顔をしている子ども達が多かったです。 窃盗や覚せい剤だけでなく,きっと中には,殺人などの罪を犯してい る少年もいるでしょう。 また,顔色の悪い子ども達は,最近入ってきたのでしょうか。 親が悲しむ・親の愛情などの情に訴える話も必要かと思いますが, 誰にでも通用するわけではありません。 中には私達の親の概念とは,まったく違う親(DV・アルコール中毒)が 存在する可能性があるので気をつけなければなりません。
会場に着くまでは,何回鍵を開け閉めしたか,覚えられないくらい厳重でした。 入ると,全員目を閉じて黙座していました。 平均は1年入っているそうです。最初の3ヶ月は,まったく私語禁止。 話をすると,どんな事件を起こして入ってきた・・という話になるからです。
講演は,いつものパターン通りのクイズをしながら話を進めます。 通常,私語は禁止ですが院長先生にお願いして,特別,回答を隣の 人と相談して良い・・というパターンをとりました。 クイズが進むにつれ,厳しい顔が和らぎ笑顔となり, これが少年院でなければ前から表情の変化をビデオで撮りたいとまで 思うようになりました。 社会に出ても,こんな顔をするようになったら,二度と戻ってくる ことはないだろうと思いました。
さて,最初に”ツカミ”として,オリンピックが始まった頃だったの で, オリンピックネタから入りました。
あるスキー競技の有名ジャンプ選手の話題を一つ。 その選手は,ジャンプでまっすぐに飛ぼうとするのですが, どうしても少し横に曲がってしまうのです。これでは飛距離が伸びません。 左右の筋肉のバランスが悪く,弱い方の筋力トレーニングをしたので すが思ったような結果が出ません。 そこで,ある歯科医に診てもらいその理由がわかったそうです。 どうしてだと思います?
1:むし歯が痛い 2:歯の噛み合わせが悪い 3:歯周病で歯がグラグラする 隣の方と相談してください。 "ザワザワ"
実は,歯の噛み合わせに問題があったのです。 そもそも人間の骨は左右対称にできています。 ところが噛み合わせに問題があると,顎の骨がズレてバランスが悪く なります。 機会があれば,次回に期待したいところです。 というところから・・・・・ イチローネタへと話題を移しました。
”ところで,イチロー選手は,1日5回歯を磨くそうです が,どうしてだと思う? (余談:5回磨くことはイチロー選手が10年くらい前に,日本歯科医師会の ベスト オブ ザ スマイル賞を受賞したときの対談に書いてありました。)
ちょっと隣の人と相談して下さい。” ザワザワ・・・・
”イチロー選手は,オリックスの時代首位打者を取っても,毎年のよ うにバッティングフォームを変えていました。 ふつうの打者だったら,首位打者になれば,そのフォームを維持しよ うとする。守りに入るのですね。 しかし,イチローの場合は,変えるのです。 どうしてでしょう。また隣の人と相談して下さい。” ザワザワ・・・・ ”それはね。イチロー選手は,他人と打率を比較することはナンセン スだと思っているからです。 他人を負かすことばかりに気を奪われると,自分の成長がおろそかになることがあります。 “イチローの目標は,すべての打席でヒットを打つこと。”なのです。 すなわち,10割バッターを目指しているのだろうと思います。 (余談:あるインタビューでイチロー選手は,50歳まで野球を続けると言っている) そんな自分の夢をかなえるために,考えなければならないこと・・・してお かねばならないこと・・・ 可能性があることを,すべて実践しているのがイチロー選手だと思います。 歯を5回磨くのは,10割打者を目指すための可能性の一つとして考えているのでしょう。 イチロー選手は,野球を通じて自分を磨いているのです。
みんなも,退院した後,仕事について,結婚して家庭を持つ・・・い ろいろな目標があると思いますが, そんな目標に向かって 今,何をしておけばよいかを考えるのが,現在の課題です・・。 ・・・・というようなカッコの良いことをしゃべりました。
その瞬間です。 あきらかに,少年達の表情・講堂の雰囲気が変わりました。 さて,ここから急展開・・・・・。 驚くべきことがあったのです・・・・・・・。 この先は,オフレコです。 続きは,いつかお会いしたときにでも・・・・。
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